【読書録】ガール
今回読んだ本は、奥田英郎さんの『ガール』。奥田英朗さんの作品を読むのは初。
この本を読んだきっかけ
Kindleのサジェスチョン。おそらく、角田光代さんの作品を何冊か読んだので、その関連でレコメンドされたと思われる。以下は直近の読書録。
概要
30過ぎの働く女性が主人公。どの人も、少しずつ価値観やタイプは違うのだけど、いわゆる「世間の目」や20代男女の視線をちくちく浴びつつ働く毎日。前半は苦しくて共感できる展開が続くのだけど、最後には救いの気づきや叫びがあって、ほっとする。
いわゆる「若い女性」であることを武器に20代まで無双していたガールズと、どちらかというとそうではなくて仕事一筋でがんばってきたガールズの2種類の女性が登場する。自分のスタイルによって、よりどちらに共感できるかは変わるかもしれないけれど、このタイプだからこう、このタイプだから別のタイプの気持ちはわからない、なんてことはなくて、おそらくどちらのスタイルにも共感できるところがあるのではと思う。
感想
一言で言えば、共感の嵐。若さって何もしなくても期間限定使い放題なのに、期限が切れると取り戻せない、むしろ取り戻そうと奮闘する姿が嘲笑の的になる、おそろしいブツ。主人公として登場する女性たちは、いずれも「世間一般的には」若いかそうでないか、マージナルな場所に立たされている。
女性はn歳で〇〇しなければならないなんてきまりも、評価軸もない。ただ、世間の目や若さ溢れる後輩たち、あるいはすでに結婚して子育てまでした両親からの言葉にさらされて、自分の生き方ってこれでいいのか?自分てもしかしてガールとしては賞味期限切れなのか?と主人公たちが悶々としてしまう。しかも、それに追い打ちをかける一昔前の男社会…。以下は、常に女性よりうえに立ちたい男がいるんだから、そいつはたててやれと上司(男)にいわれた主人公の心の叫び。
結局、男は男の気持ちしかわかろうとしない。同性にはとことん甘く、恨みを買うのを恐れる。
木原を見損なった。なあにが男のメンツだ。そんなもの、男以外の誰も認めてなどいない。日本国憲法だって認めていない。権利のつもりでいたら大間違いだ。
男のメンツを気にする気持ちは大事にするのに、女性だからというだけで下に見られる、男を立てる役回りを(給料にならなければGDPにも貢献しないのに)求められる屈辱を軽減しようとは思わないんだなと、主人公と一緒に唖然とした。いわゆる世間がいう「30手前くらいで結婚して家庭を持つ女性」にもなりきれず、かといって男性と同じような頑張り方もできない、マージナルな存在ならではの苦悩が伝わってくる。
少し脱線したが、そんな状況でも前向きに生きるにはどうしたらいいものか…という悩みに対するアドバイスも本書の中ではささやかれている。まず第一は、年齢を気にする暇があったらいまを楽しんだ方がいいということ。そして、自分でない別の誰かになろうとしないこと。世間の目とか、上下世代からの視線とか、気にして自分自身をゆがめなくていい(仕事でも、プライベートでも)。
自分から年齢に縛られて、もう遅いとか、少し様子を見ようとかして何もしない、これがいちばん馬鹿らしいと思う
今、自分のファースト・プライオリティがはっきりとわかった。自分を偽らないことだ。これに優先するものは何もない。
それから、これは前を向くためというよりも、少し視点を変えて自分を見つめられる言葉だと思ったのだが以下。
きっとみんな焦ってるし、人生の半分はブルーだよ。既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても
仕事をがんばる、未婚の主人公が、同窓会を機に既婚の元同級生からいわれた言葉。
女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる。
結局は、どんな選択をしても「ありえたかもしれない自分」を想像してないものねだりや後悔をすることはある。焦りや後悔はあって当然なんだ気付くと気持ちが軽くなる。
人生の中で「やるか、やらないか」「AかBか」という選択肢を取らされる場面は多くある。どちらかを選ぶたびに、「あり得たかもしれない自分や可能性」を半分づつくらい捨てることになる。そう思うと、あり得たかもしれない自分像なんて無限にあり、それになれないことを嘆いていたら、人生半分(もしくはそれ以上)ブルーになってもおかしくないと納得できる。
時にはブルーになっちゃう自分も含めて、自分を偽らずに、やりたいこと、ほしいもののために楽しもうと、前向きな気持ちになれる本だった。
結び
そういえば、この小説の著者である奥田英朗さんは男性。男性ながら、ここまで女性の心の内を描写できるなんて、どういうことだと脱帽した。なんなら、自分はまだたどり着けていない境地だってあったのに。
30過ぎの働く女性が主人公。共感の嵐。仕事とプライベートを天秤に乗せがち。どんな道を選んでも、違う道があったんじゃないかと思ってしまうし「人生の半分はブルー」。しかも、これを書かれたのが男性とは…凄すぎる。
— oαk (@83greentea) 2021年8月29日
ガール (講談社文庫) / 奥田 英朗 #読書メーター https://t.co/DwmX6bIJZ1