読書録~看書便條~

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【読書録】コンビニ人間

読書メーターで常におすすめ上位に表示されるものの、読んでいなかったコンビニ人間
彼岸花が咲く島』に続き、芥川賞作品を読んだ(タイミング的には「今更」だけど…)。

bookmeter.com

概要(ネタバレにならない程度に)

36歳未婚、コンビニでアルバイトをしている女性が主人公。いわゆる「普通」になじむことができておらず、周りからすこし距離をお帰れている存在。ただ、本人はそれを悲観的にはとらえておらず、深刻な悩みであるとも思っていないし、なじめないことに焦燥感も抱いていない。それゆえ周りが「普通」はこうするということを真似て場をやり過ごす。

ある日、バイト先のコンビニに新しいアルバイトがやってきた。彼はすぐにバイトを首になるのだが、ひょんなことから主人公と同棲するようになる…。

感想

端的に言うと「普通」が何かを考えさせられる。

私は「普通」から外れすぎないことを望み、「普通」から外れそうになると焦ったり悩んだりするが、それは私に限らずおそらく誰しもあるのでは?むしろ、焦り、悩むのが「普通」の人間なのかもと思う。

他方、主人公はそんなことにすら悩んでおらず、本当に「普通が分からない」様子。ただ、頭が悪いわけではなく、彼女の考え方は論理だてられてはいる。論理的だからこそ、「普通」の考えと彼女の考えは交わることはなく、どこまでもパラレルな関係をなす。厳密には、主人公は周りの人の言葉遣いや反応を真似てはいるのだが、あくまで表面上の真似であって、本当に理解をしているわけではない。

そんな主人公だが、アルバイト先でコンビニ店員として働いている間は「普通」に近い状態になれる。それは、コンビニバイトのマニュアルがたたきこまれているからである。

私はバックルームで見せられた見本のビデオや、トレーナーの見せてくれるお手本の真似をするのが得意だった。今まで、誰も私に、「これが普通の表情で、声の出し方だよ」と教えてくれたことはなかった。

マニュアル通りの話し方、態度に染まることは個性を消すものだと考えられるが、主人公にとっては、変に目立ってしまう個性を隠して、自分を生きやすくしてくれるものだという。

 

話は戻るが、「普通」でありたいがために自分をいつわったり、思ってもいないことを行ったりすることは誰しもあるのではと思う。例えば、友人6人と話していて自分だけある経験をしたことがないのに、したことがあるように言ってしまったりとか(ちなみに、私は大いにある)。逆に、自分はある経験をしてしまったけれど、それがないかのようにふるまうとか(実はこれ、ここ数年ずっと悩んでいる。ちょっとこの小説の「普通」とは論点ずれる類のものだけど)。

さらに、みんな自分を「普通」にカテゴライズしようとがんばるだけでなく、身内の場合は他人の話まで「普通」に寄せようとする側面があるという。これは、なかなか思っても文字に起こせないので、小説で的確に表現されていることに感動を覚えてしまった。

皆、私が苦しんでいるということを前提に話をどんどん進めている。たとえ本当にそうだとしても、皆が言うようなわかりやすい形の苦悩とは限らないのに、誰もそこまで考えようとはしない。そのほうが自分たちにとってわかりやすいからそういうことにしたい、と言われている気がした。

そして「普通」にあてはめられない人の話は、嘲笑や噂話、あるいは(大げさな言い方をすれば)仲間外の対象になってしまう。それは小説内では直接的には書かれていない者の、たとえば主人公が男性と同棲しているとわかったとたん、周りの人が飲み会にさそってきたり、こちら側の人間として会話にいれてくれたりする描写から伝わってくる(小説そのものを読んでいただいた方が早い)。

まとめ

どちらかというと自分は「普通」からはずれることに羞恥や焦燥感を覚える質だと思う。こんな人間、主人公から見たら「なんでそんなに周りの人から干渉されてるの?」と疑問に思う対象なのかもしれない。