【読書録】ちいさな幸福 <All Small Things>
恋人と過ごしたどんな時間が心に残っているか?
という質問をされたとしたら、思い浮かべるのは楽しかったデートだろうか、それとも、サプライズされて強烈に印象に残ったデートだろうか?
回答は人それぞれだと思うが、心に残っている出来事は大きなイベントやたくさんお金と時間をかけた出来事とは限らない。小さなことから大きな幸せを感じることもある。
…そんなことあるかい!
とおもった人には、ぜひこの本を読んで、主人公と一緒に自分の記憶をたどりながら読んでみてほしい。
読んだきっかけ
これまで角田光代さんの書籍を2冊読んでいたこともあり、Kindleのおすすめにこの本が登場。角田さんの、自分よりも不器用そうに見えるのに、自分のようにも見える主人公を登場させる小説が好きで、今回も一気に読んでしまった。
毎度ながら、読んでいると自分がうまくいっていなかったり、悩んでいたりする姿を、小説を鏡にして見せつけられる気がする。主人公を年齢が近いと猶更。
概要
主人公が順々にかわりつつ、それぞれのデートにまつわるエピソードや思い出を語る。デートの内容は様々で、幸せだったデートもあれば、最低なデートの話もある。
読んでいくと、何が幸せなのかは人によって違うこと、実は印象に残っていることって、意外と小さな幸福だったりすることに気付かされる。
(以下、ネタバレ)
特に、最初の語り手として登場するカヤノとその恋人は、どうやら心に抱く思いが異なる様子。デート中同じ時間を共有しているはずなのに、思いの違いが表現されていて面白い。ああ、彼氏の方、その思っていることをカヤノにぶつけてあげてほしい…!と思いつつ読んだ。
感想
ついつい自分を顧みたくなるような、身近にいそうな人物が主人公になっているので、ぜひ自分を顧みて、自分にとっての小さな幸せって何だっただろう?と思いながら読むと、心が温まるのではと思う。
もし私がカヤノだったら?
冒頭にも書いた、印象に残っている時間は何だろう…。
正直、過去の恋愛は完全上書き、上書きされるまではzipファイリングしていじらないようにしているので、あまり思い出すことはない(というか、思い出したくない)。
ただ、恋人じゃなくてもいいのであれば、印象に残っている瞬間はいくつかある。たとえば以下。
- 人生で初めてバイクに乗せてもらったとき(合法です。念のため)。あの緊張感は、2ケツによるドキドキだったのか、単にバイクに乗る恐怖だったのか…。
- 学生寮の庭に呼び出され、友人と2人で散歩をしたとき。呼び出しって、ひとりでは絶対に成立しないシチュエーションでなんだか青春ぽい(真冬だったけど)。しかし、呼び出されたウキウキは皆無で、むしろ相手の話す英語を聞き取れるか不安でしかなかった。実際、とにかく相手の話を聞き取るので精一杯で、緊張したし、なんなら何を話したか全く覚えていない(別れ際にたくさんお菓子をもらって、かかえて自室に戻ったことだけは覚えている)。
- 父親と二人でオクトーバーフェストにいったこと。当時の自分は黒ビールが苦手だったが、父は黒ビールが好きだったので、ひとくち飲ませてもらった。感想は「自分はやっぱり黒ビールは苦手だ」だった。これが最後になるとはつゆ知らずに。
こうしてみると、恋愛感情ではなくて、自分一人では起こらないであろうことや気分を経験させてもらった時が、印象に残っているようだ。バイク2ケツは、最たる例だと思う。
一方で、今同じことをしたら、同じ気持ちになるかと言われると、そうではないかもしれない。
しかしながら、すてきなデートというものはその人ともうひとりがいるからこそすてきなのであって、同じことを違う人がやってもすてきにはなり得ない。どんな人も自分のデートに自信を持っていいのである。あるいは、自分の恋に、恋した人との時間に。356人の幸福な記憶から、私はそんなことを教えられたのだった。
あのとき、あの場所で、あのひとと一緒にいたからこそ、いまでも思い出して自分に幸福感を与えてくれる思い出ができたのかもしれない。あのときの自分と、相手と、環境と、すべてが合わさってこそ印象に残る思い出になったのだと思う。
ちなみに、上記は自分の勝手なふりかえりだが、この本の後半にも、読者が恋人と過ごした印象的な時間のエピソードを投稿している部分がある。
みなさん、すてきな、胸キュンな経験をお持ちで、正直うらやましい笑
いつかそんな機会に恵まれてみたいものである(他力本願)。
おまけ
全く本文と関係ないのだが、この記事に合うアイキャッチを探そうと思い、「デート」というキーワードで写真を検索したら、デートっぽい写真と、デーツの写真がほぼ交互に登場して、ひとりくすっと笑ってしまった。