読書録~看書便條~

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台北の川沿い【夜×旅】

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角田光代さんの『幾千の夜、昨日の月』を読んで、自分の夜×旅の思い出を振り返りたくなった。

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旅といえるかやや怪しいが、思い出に残っている夜のひとつに、台北の川辺で過ごした時間がある。当時、台湾に留学していたものの、住み始めてまだ3カ月たっていなかった(はず)の私は、台北のどの辺の川にいったのか、正確に把握できていなかったが、住居からそこまで時間をかけずに行った記憶がある。

 

ある日の夜、私は台湾人の友人と、どういうわけか夜に二人でバイクで出かけた(私は運転できないので、二人乗り)。何が目的で出かけたのか忘れたが、よく一緒にご飯を食べに行っていた人だったので、その時もきっと晩御飯を一緒に食べに行ったのだと思う(台湾では外食が普通)。

すでに日が沈んでいたことに加え、繁華街から離れたエリアまでバイクで行ったからか、周辺も明かりがぽつぽつとしかなかった。それで、どこに行ったのかを正確に把握できなかったのだが、とりあえず、川のほとりで座っておしゃべりをしようということになった(当時の私は中国語初心者だったので、日本語で)。

何をしゃべったのか、ほとんど覚えていないのだが、唯一記憶にあるのは、そこで台湾人が

「この川沿いは、デートスポットとして有名なんだよ。」

と言ったことである。

これを聞いて、私は2つの意味で驚いた。

まず一つは、デートスポットと紹介された川辺は、冒頭紹介したように暗く、とてもデートスポットには思えなかったことである。私はなんとなく、夜デートスポットといえばイルミネーションをイメージしてしまうのだが、その川辺は真っ暗で、自分たち以外にカップルと思しき二人組はほぼみあたらない。もしかして、昼の川が美しいのか、ピクニックとかに適している場所なのか…?とも思ったが、とにかく、ただ真っ暗でどこが見どころなのかも見えない川辺をデートスポットと紹介されたことに驚いた。

もう一つは、あまり恋愛トークをしない相手の口からデートスポットという言葉が出てきたからである。当時の私たちは、毎日のように一緒に勉強し、晩御飯を食べる仲だった。あまりに一緒にいるので、友人から「你跟他交往嗎(つきあってんの)?」と聞かれることもあった。正直言えば、どっちかがきっかけさえ作れば付き合うのは時間の問題、みたいな関係だったとは思う。

ただ、その「きっかけ」というのは訪れず、それどころか恋愛の話をすることもほぼなかった。二人で話すのはもっぱらお互いの勉強の話や、私が台湾で行ってみたい場所の話だった。

だからこそ、私は「この川沿いは、デートスポットとして有名なんだよ。」という発言になんと返していいかわからなくなった。

「それって、いまわたしたちデートしてるってこと?」と素直に聞けたらよかったのかもしれないが、聞けなかった。かといって、「え、ここがデートスポットなの?」と返すのは失礼だしなあ…と悩んだ結果、なんと返したのかは覚えていないのだが、少なくともその話はあっさり終わってしまったような気がする。

真っ暗だったので、相手の顔は良く見えておらず、何を思っていたのかはよくわからない。逆に、相手にも私の顔は見えていなかったので、私が驚いていてこともわからなかったと思う。つまり、「この川沿いは、デートスポットとして有名なんだよ。」という発言があったことは確かなのだが、それ以外何も確かでない状況だった。

 

あのとき、「それって、いまわたしたちデートしてるってこと?」と聞けていたら、私の青春は変わっていたかもしれない。二人の間になかなか訪れなかった「きっかけ」になりえたのでは…そしてそれをきっかけに二人の関係性は変わったかもしれない…。

正直、この日の思い出はロマンチックな思い出というよりも、後悔の思い出として残っている。それは、質問さえしていれば…と何かを逃してしまった気持ちを強く感じるからかもしれない。

けれど、その一言がはついに出てこず、その後二人でその川に行くことも、デートやら恋愛やらの話が出ることもほぼなかった。私たちの関係は、その後ずっと友達のままである。