読書録~看書便條~

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【読書録】生理用品の社会史

女性の社会進出における縁の下の力持ちと言っても過言ではない、生理用品
ナプキン、タンポン、月経カップなど、様々なものがあるが、自分にあったものを利用できることは、月経日も普段と近い生活をおくる助けになる。

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現代の日本では、そういった生理用品は比較的安価で手に入るものとなった(もちろん、生理の貧困のような問題は未だに残っているが)。
しかし、何百年も前の、プラスチックなどなかった時代、女性はどうやって生理を乗り切り、生きていたのか。そんな疑問への回答と、日本における生理用品の普及と改良、さらには女性への視線の変化などについて解説、考察している本を読んだ。

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戦前の日本ではタンポン派が多数だった

まず、最も驚いたことが、日本では、戦前、タンポン式が多数派だったということだ。
私は実はタンポンを使ったことがない。また、周りの友人を見てもタンポンよりもナプキンを使用している人の方が多い印象を受ける。例えば、友人間で生理になってしまったときに「ねえ、ちょっとナプキン1枚くれない?」ということはあってもタンポンを受け渡しすることはない。

ウーマンリサーチが2021年に全国のWEB会員を対象に実施したアンケート調査によると

回答者668人中、生理用ナプキンの利用経験は97.8%となりました。他の生理用品については「タンポン」57.9%、「布ナプキン」12.3%という結果に(複数回答)。

とのとで、数字で見てもナプキンの使用率の方が高いようだ。だからこそ、以前はタンポン式が多数派だったことには驚きを隠せなかった。

ただ、当時のタンポン式生理用品は使用後にうまく処理ができないことなどを原因に、別の病気を引き超す可能性もあったことから、戦後、ナプキンにシェアを譲り渡すことになったよう。

生理中の女性に対する差別と女性内格差

生理中の女性は穢れであるとして、その期間だけ隔離したり、不潔なものとして蔑むような動きがあったことは知っている人も多いと思う。この本でもその点について触れられていたが、まあひどい…。

生理中の女性を休ませるための隔離だったという弁解もあるようだが、そのくせに炊事などはさせるという状況だったようなので、それは後付けの即席でこしらえた理由でしかないように思う。

想像つかない人は、小山健さんの『生理ちゃん』の5を読むことから始めよう。

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それから、女性の間でも身分や環境によって生理中の生活に大きく差があったように思われた。例えば、上流階級の女性向けの雑誌に「生理中やってはいけないことリスト」みたいなものが提示されていたようなのだが、刺激物(酒、コーヒー)をとったり、激しい運動(ダンス、乗馬)をしてはいけないというようなことが記載されていた。

まあ、たしかに趣旨は間違っていないのだが、やや世間離れしたリストである感が否めない。そもそも(今の自分もそうだけど)ダンスとか乗馬なんてできる経済的・時間的余裕なぞないので、こんなリスト見せられても「ハア?」としか思えない。このリストはあくまで上流階級の、生理中に必要な対応を躊躇なくとれる女性向けに書かれたものだからだ。逆に、一般の女性は生理中だろうが、生理前の体調不良期だろうが、働かざるを得なかった。

生理中は一切の無理をせずにいられる女性と、生理中を理由に休むことができない女性がいたようだ。これは、現代にも残る問題ではあるかもしれないが、本書で記載されている、ナプキン普及以前の日本ではこの格差がより顕著だった印象を受けた。

医療の進歩と富国強兵が生理への見方を変えた

生理中の女性は穢れとして差別を受けたわけだが、戦時になるとその考えが徐々にかわっていく。戦時は健康な子供を産むことがよいとされ、医学の進歩も相まって、生理への理解が進んだ(実際、栄養失調などになると生理はとまり、妊娠も難しくなる)。

富国強兵と生理がリンクるものだとは思っていなかったので、正直驚いた。

生理に特別な意味付けは必要か

本書の後半では、日本における生理用品の普及について説明されているが、これはすでに知っている内容だったので、感想は割愛。知らない人は、本書または『生理ちゃん』を読もう。

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ちなみに、この漫画で紹介されている「アンネナプキン」は、現在は市場シェアを失ってしまったのだが、日本における生理用品の普及と女性の社会進出を支えたという点においては非常に意義があるもの、と指摘されている。

なお、冒頭日本ではナプキンが多数派であると触れたが、ナプキンはゴミになってしまうという観点から、布ナプキン(洗って何度も使える)などの利用を薦める意見もあるという。布ナプキンについては、経血を自ら洗うことで生理に向き合うことができるといった意味付けもあるようだ。
筆者はサステイナビリティという観点からの布ナプキンは否定しないものの、生理用品や生理そのものに過度な意味付けやイデオロギーを与えることについては警鐘を鳴らしている。

私自身も、生理に過度に意味付けをする必要はなく、環境や人体に配慮しつつも、必要な人が、必要な時に、自分の状況(経血量、その日の運動量など)にあわせてベストな生理用品を選べることが最も重要なのではと思う。出血が多ければタンポンとナプキンを併用してもいいし、寒い日には布ナプキンを使ってもいいかもしれない。

まとめ

女性でも知らない、生理の歴史や、先人の葛藤が理解できる本だった。社会の変容に伴って生理への見方が変わったこともあれば、アンネナプキンのように、生理用品が女性の生き方を含む社会を変えたこともあったのだと学ぶことができた。

男女関係なく読むと良い本だともうけれど、生理(とそのしんどさや、生理中に女性は何に悩んでいるのかなど)を知らない方であれば、『生理ちゃん』で予習してから読むのでもいいかと思う。