読書録~看書便條~

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眠れなかったジャワの夜【夜×旅】

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角田光代さんの『幾千の夜、昨日の月』を読んで、自分の夜×旅の思い出を振り返りたくなった。

bookmeter.com

今回は、精神的にハードだった思い出として、旅先で眠れなかった夜の話を書こうと思う。

時は学生時代、私はインドネシアのジャワ島にいた。2週間ほどの短期留学で、ジョグジャカルタにあるガジャマダ大学という学校に滞在した私は、プログラムの一環で山にとまることになった。その短期留学では自然や災害復興を学ぶことがメインテーマになっていて、山、田んぼ、海部など様々なところに行った。そのうち、山での授業を受けた際、山中の研修所(のようななところ)に宿泊することになり、そこで眠れない夜を過ごすことになった。

余談だが、ガジャマダ大学は日本でいう東京大学のような地位にあり、Forestry(林業、森林管理)について学ぶ学部がある。うろ覚えだが、宿泊した研修所的な施設は、その学部の所有施設だったぽい。

www.ugm.ac.id

施設にはコモンスペースと、個人部屋があり、自分を含む留学生は個人部屋で眠ることになった。コモンスペースと個人部屋は廊下でつながっているのだが、この廊下が半屋外状態だった。具体的にいうと、廊下のうち、個人部屋につながる側には個人部屋と廊下を隔てる壁があるのだが、反対側には壁がない。個人部屋から出ると、目の前に広がるのは窓ガラスなどを一切隔てない、森林そのものになる。

こういうと、自然を感じられて素敵、と言えるのかもしれないが、あまりにも自然と物理的距離が近い廊下だったためか、森林内に住む生き物との距離も近かった。例えば、石材の床にはアリやカタツムリが常にいた。また、床と地面の高さがほぼ同じなので、泥も入りやすい。さらに、あいにく、その晩の天気は雨だったので、地面にうちつけられた水滴が廊下にまではねてしまい、廊下はびちゃびちゃだった(カタツムリにとってはありがたいかも)。

正直、廊下に虫がいるだけなら、踏まないように気を付ければいいだけなので、耐えられる。しかし、私が眠れないほど困ったのは、個人部屋のドア上にヤモリがいたことだ。

東南アジアには、インドネシアに限らず、ヤモリがたくさんいる。日本にもいるが、出会う頻度がけた違いに高い。大学だろうが、レストランだろうが、ホテルだろうが、いたるところにいる。インドネシア短期留学中も、全長10センチほどのヤモリは何度も見かけた。正直、虫やトカゲは苦手なので目につかないところで共存できた方がありがたいのだが、あまりにも見かけすぎるので、いちいち気にしないことにしていた。

ただ、その研修所で見かけたヤモリは、いままで見た中で最大級にデカかった。全長50センチくらいあり、片手ではつかめないくらいのウエストサイズだった。というか、あれはヤモリだったのかすら疑わしい(でも、苦手なので直視できず、正直姿はうろ覚え。もしかしたら違う生き物だったのかも)。

そのヤモリは、私の個人部屋に通じるドア上部、鉄格子で窓の様になっている部分にどっかり居座っていた。場所が場所なので、部屋に出入りする際には必ずヤモリの下を通らなくてはならない。しかも、鉄格子を通り抜けられれば部屋の内側にもヤモリは入り込めてしまう。

さすがに50センチ近くあるヤモリには恐怖を覚え、もしドア上部からおりてきて自分のベッドにきたらどうしよう、こっそりリュックに入り込んだらどうしよう、床に降りてきてもドア前に居座られたら部屋から出られないじゃん…など、良くない想像が勝手に膨らんでいった。なんでよりによって私の部屋のドア上を選んだんだよ…と、ヤモリに対する恨みさえ抱いた。

就寝時刻になり、電気を消してベッドに横になったが、直前まで良くない想像を存分に膨らませていたので、頭の回転が早まり、全然眠れない。ちょっとでも物音がすれば、ヤモリが動いたのではと思い目が覚めてしまう。そして(本当は見たくないけど)その都度ドア上のヤモリのシルエットを確認し、「よかった、まだあそこにいる」と安心してうとうとする…というのを繰り返した。この夜は、短期留学中一番寝た気がしない夜になった。

苦手なものと一緒の空間で眠ることほど難しいことはない。正直、これはヤモリに限らず、自分の場合はほかの虫(Gとか、くもとか)にも言えることではある。ただ、デカいヤモリという動きが予測できなかった生き物と眠るというのは、単にそれが苦手だからということだけでなく、得体のしれないものと同じ空間を共有しなければならない恐怖感があった。苦手意識や恐怖感を抱くと、心は疲れるが、なぜか頭が働いてしまい、疲れているのに眠れないのだなと、身をもって感じた夜になった。

ちなみに、翌朝目覚めると、デカいヤモリは姿を消していた。苦手なものと一緒にいるのは嫌だが、苦手なものの行方が知れなくなるのもそれはそれで怖い。幸い(?)部屋の中にも、廊下にもその姿はなかったので、おそらく森に帰ったのではなかろうかと思う(ことにした)。

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