読書録~看書便條~

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【読書録】絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか

今回読んだのは『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』。

かつて地球には私たち(=ホモ・サピエンス)以外の人類もいたはずなのに、どうしてホモ・サピエンス以外の人類は絶滅してしまったのかを説明している本。

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この本を読んだきっかけ

人類史に興味があったため。これまでも、何冊かこの分野の本を読んでいたが、今回はこの本がKindle Ulimitedの対象になっていたので読んだ。

概要

なぜホモ・サピエンスが現代まで生き残り、ネアンデルタール人が絶滅してしまったのかという問いがメインテーマ。ただ、人類の起源はさらにその前の原人・猿人までさかのぼれるため、前半はネアンデルタール人以前の人類についての解説も含まれる。

ちなみに、本書ではほぼ前提として記載されているが、ネアンデルタール人は我々(ホモ・サピエンス)の直接の祖先ではなく、共通の祖先をもつ別の人類であるとされている。

アフリカを出て、ヨーロッパに住み着いたホモ・ハイデルベルゲンシスの一部から、おそらくネアンデルタール人が進化した。一方、アフリカにとどまったホモ・ハイデルベルゲンシス(あるいはその近縁種)の一部が、ホモ・サピエンスに進化したと考えられている。DNAによる解析によれば、ホモ・サピエンスネアンデルタール人が分岐したのは、およそ 40 万年前だ。

アフリカの外に出た集団のさらに一部は、ヨーロッパに移住した。そして、ヨーロッパに移住した集団からはネアンデルタール人が進化し、アフリカに住み続けた集団からはホモ・サピエンスが進化した。それが、約 30 万年前~約 25 万年前のことである。この2種の人類は、それからしばらくは出会うこともなく、ヨーロッパとアフリカという別々の場所で暮らしていた。しかし、その後、ホモ・サピエンスの一部の集団がアフリカを出ることになり、その中にはヨーロッパへ向かう集団もあった。そして、数十万年の時を経て、2種の人類は再会することになる。およそ4万7000年前のことであった。

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本題にもどると、本書のテーマである問の回答としては、ホモ・サピエンスネアンデルタール人の絶滅に何らかの形で寄与したがそれはかならずしも暴力をもって駆逐したためとは限らない。両者が共存していた期間はあったものの、様々な要因によりホモ・サピエンスだけが現生人類として残ったと考えられるという。

おそらくネアンデルタール人は、寒さとホモ・サピエンスのために絶滅した。ホモ・サピエンスの、動き回るのが得意な細い体と、寒さに対する工夫と、優れた狩猟技術は、ネアンデルタール人にないものだった。

さらに、DNAを分析すると、ネアンデルタール人ホモ・サピエンスが交配した証拠が得られており、彼らはお互いを駆逐しあう関係ではなかった可能性もある(ただし、前者が後者に食べられた形跡もあるようなので、全てが友好的関係だったかといわれるとそうともいいきれない)。

2010年には、ゲノムの約 60 パーセントが決定された。その結果から、ついにネアンデルタール人ホモ・サピエンスが交雑していたことが、明らかになったのである。

感想

本書の問に回答するためには、そもそも人類の起源は何者だったのかから説明する必要がある。そのため、本書の前半はチンパンジー類と人類が別れた後、骨の特徴や脳の大きさがどのように進化し、他の主と異なる特徴が認められるようになったのかの説明に割かれている。また、実は後ほど紹介する関連本にて、この問いに対する回答をほぼ予測できていたため、この点について特段の感想はほぼない(予想通りだった)。

個人的には、かつては人類よりも、イルカのほうが体に占める脳の比率(厳密には単純に重さで割り算して出てくる数ではないのだが)が大きかったというのが面白かった。体の大きさが違う生物同士の脳の大きさを比較するには、脳化指数という指数を用いるとのこと。脱線するが、単位のちがうもの、規模の違うものを比較できる指数ってホント便利…。

人類は約700万年前にチンパンジー類から分かれた。その頃の脳化指数は、約2・1であった。そして当時、もっとも脳化指数が高かった動物は、人類ではなく、イルカだった。イルカの脳化指数は約2・8である。人類は地球で一番脳の大きい動物ではなかったのだ。

そして、ホモ・エレクトゥスの時代に脳化指数でイルカを追い抜いたのである。脳の大きさにはかなりの変異があるので正確には言えないが、だいたい150万年前のことだ。そして現在のヒトの脳化指数は、およそ5・1である。

ちなみに、単純に「脳の重さ/体重」で計算すると人間よりネズミの方が比率が高くなるらしい。また、単に脳が大きければ賢いのかというと、そうとは判断しきれない。地球上最も大きな脳をもつ生物は鯨だし、実は現生人類(ヒト)よりもネアンデルタール人の方が平均的な脳のサイズは大きかったという。つまり、我々は人類の中でも2番目に脳が大きい人類であり、単に脳が大きくなったから生き残れたとは言い切れない。

むしろ、本書でも指摘されていたが、脳が大きくなると、その分エネルギーも必要になる(=それだけの食料を確保し続ける必要が生じる)ため、大きければいいというものでもない。本書内では、この使わないアプリをたくさんいれたスマホに喩えて説明されていて、おもしろかった。

関連本

このテーマについて、理解を深めたい・すこし違う観点からも考えてみたい方にお勧めの書籍。あくまで私が読んだ本の中(狭い)からの抽出ですが…。

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結び

犬や猫はいろいろな種類がいるのに、なぜ人は「ホモ・サピエンス」しかいないのか、よく考えると不思議。その確たる理由はいまも研究が続いていると思われるが、人類同士で駆逐し合ったから、というわけではない可能性が高そうだ。

余談だが、ヒト属のうち現代まで生き残っているのはホモ・サピエンスのみだが、イヌ属はさらにイエイヌ、コヨーテ、タイリクオオカミ、セグロジャッカルなどに分かれる。(出所)Genus Canis(イヌ属)

ペットとして親しまれている犬はイヌ属の中のイエイヌらしい。

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